大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)722号・昭57年(ワ)7273号 判決
【主文】
一 甲事件被告株式会社シノベ製作所は、別紙記載の手提袋の提手を製造し、譲渡し、貸し渡してはならない。
二 同被告は前項の手提袋の提手を廃棄しなければならない。
三 甲事件被告株式会社シノベ製作所、同篠邊貞道は、甲事件原告河本勉に対し、各自金三六四万七〇五〇円及びこれに対する昭和五八年一一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 甲事件原告河本勉のその余の請求を棄却する。
五 乙事件原告株式会社シノベ製作所の請求を棄却する。
六 訴訟費用は甲乙事件を通じこれを三分し、その一を甲事件原告・乙事件被告河本勉の、その余を甲事件被告・乙事件原告株式会社シノベ製作所、甲事件被告篠邊貞道の負担とする。
七 この判決は、甲事件原告河本勉勝訴部分に限り仮に執行することができる。
【事実】
「第二 当事者の主張
(甲事件)
一 請求原因
1 原告は、次の実用新案権(以下これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有している。
考案の名称 手提袋の提手
出願 昭和四八年六月二〇日(実願昭四八―七三〇四七)
公告 昭和五二年一〇月三日(実公昭五二―四三三八六)
登録 昭和五三年八月一五日(第一二三六九八〇号)
実用新案登録請求の範囲
「紐条帯から成る二個一組の提手主体1、1の両端部2、2の側面に直角方向の挟持突子a、aを突設し、該提手主体1、1を袋体6の前後の上口側辺e、e'上に外側から各々平行状に添わせて挟持突子a、aを挿通し、内向きに雄型または雌型の結合子5、4を設け且つ受孔b、bを穿設した前後一対の挟着板3、3を内側から添わせて前記の挟持突子a、aの先端を受孔b、bに着脱自在に強嵌して成る手提袋の提手。」
2 本件考案の構成要件及び作用効果は、次のとおりである。
(一) 構成要件
(イ) 紐条帯からなる二個一組の提手主体1、1の両端部2、2の側面に直角方向の挟持突子a、aを突設し、
(ロ) 該提手主体1、1を袋体6の前後の上口側辺e、e'上に外側から各々平行状に添わせて挟持突子a、aを挿通し、
(ハ) 内向きに雄型又は雌型の結合子5、4を設けかつ受孔b、bを穿設した前後一対の挟着板3、3を内側から添わせて
(ニ) 前記の挟持突子a、aの先端を受孔b、bに着脱自在に強嵌してなる
(ホ) 手提袋の提手
(二) 作用効果
(イ) 挟持突子を穿設した提手主体の両端部と受孔を穿設した挟着板とで袋体の上口側辺を内外から横通状に強嵌挟持して袋体への提手主体の装着を簡易にかつ荷重に対する丈夫さを図ることができる。
(ロ) 袋体の内側から装着させた前後の挟着板は、内向きの雄雌型一対の結合子を各々一体に設けてなる故、袋体の前後の上口側辺を互いに寄せ合うだけで内側の雄雌型の結合子が互いに嵌入し合つて袋体の上口部を閉鎖し、携帯中に収容物が跳び出る憂いなく安全であると共に収容物の出し入れには、前後の上口側辺を互いに外向きに引き開くだけで、結合子相互の結合状態を解き容易に開口できる。
3 被告株式会社シノベ製作所(以下「被告会社」という)は、昭和五七年一月ころから別紙記載の手提袋の提手(以下「イ号製品」という)を業として製造し、譲渡し、貸し渡している。
4 イ号製品の構成及び作用効果は次のとおりである。
(一) 構成
(イ)' 紐条帯からなる二個一組の提手本体1の両端部に夫々二片の耳部2、2'を対称的にかつ一体的に設け、
(ロ)' 一方の耳部2に二つの挟持突子a、aを直角方向に穿設し、
(ハ)' 他方の耳部2に雄型又は雌型の結合子4、5を設けると共にこの雄型又は雌型の結合子4、5を挟んで前記挟持突子a、aのための受孔b、bを穿設し、
(ニ)' 前記挟持突子a、aを袋体の開口部側縁の外側から挿通すると共に対向して設けられている別の耳部2'に穿設された受孔b、bに挿通して着脱自在に固定する。
(ホ)' 手提袋の提手。
(二) 作用効果
イ号製品は右の構成を採ることによつて、前記2(二)記載の本件考案の作用効果と同一の作用効果を奏する。
5 イ号製品は左記のとおり、本件考案の構成要件をすべて充足し、前項(二)記載のとおり本件考案と同一の作用効果を奏するからその技術的範囲に属する。
(一) 構成(イ)'(ロ)'は、構成要件(イ)を充足している。
ただ、前者は提手本件1の両端部に二片の耳部2、2'を有しているのに対して、本件考案の公報の実施例は両端部が一片しか存在しない差異がある。
(1) 実用新案登録請求の範囲によると「提手主体1、1」「内向きに雄型または雌型の結合子5、4を設け且つ受孔b、bを穿設した前後一対の挟着板3」と記載されている。そして、考案の詳細な説明には、「受孔b、bを穿設した挟着板3」(第二欄一五、一六行目)「袋体6の内側から嵌着された前後の挟着板3、3に」(第二欄一九、二〇行目)との記載があるが、挟着板3、3が提手主体1、1と別体のものであるとは、どこにも記載されていないのである。ただ図面を見ると別体となつているだけである。しかし、図面はあくまで本件考案を理解するための添付図面であつて、決して考案そのものではなく、一つの実施例を示すものにすぎないのである。したがつて、本件考案を図面に限定することは許されないし、また、本件考案は挟着板3、3と提手主体1とを一体としたものを決して排除してはいないのである。
(2) 仮に、本件考案が挟着板を提手主体とは別体のものとしているとしても、挟着板3、3を提手主体1、1と一体とすることは単なる附加であつて(離れている部分を結合させるだけにすぎない)、そのことによつて作用効果その他に何らの変更を及ぼすものではない。
(3) 仮に附加でないとしても、それは設計変更又は均等の域をでないものである。けだし、本件考案の要旨は、提手主体1、1の両端部2、2の側面に直角方向の挟持突子a、aを突設し、他方この挟持突子a、aの先端を着脱自在に強嵌しえる受孔b、bを穿設すると共に、雄型又は雌型の結合子5、4を設けた挟着板3、3を設けたという構成にあるのであり、これにより提手を袋物に挟着する方法と袋体開口部の閉鎖方法という二つの課題を同時に解決したのである。そして、イ号製品も本件考案と同一の技術的思想を用いていることは疑いのないところであり、また、イ号製品が本件考案と同様の作用効果を有することは前項(二)記載のとおりである。
更に、特開昭四七―三一七七四号公報(乙第一号証)によると、挟着手段である嵌合装置として提手部両端に二股状に分岐した嵌合片4、5を設けることは本件実用新案出願当時公知であつたのであるから、本件考案の開示を受けた当業者が、本件実用新案の受孔b、b及び結合子5、4を有する挟着板に右乙第一号証の嵌合片の技術的思想を取り入れることは極めて容易であつたはずである。
(二) 構成(ハ)'は、構成要件(ハ)前段を充足している。
(三) 構成(ニ)'は、構成要件(ロ)、(ハ)後段及び(ニ)を充足している。
(四) 構成(ホ)'は、構成要件(ホ)を充足している。
6(一) 被告篠邊貞道(以下「被告篠邊」という)は、被告会社の代表取締役であるが、その職務の執行にあたり、イ号製品の製造販売が本件実用新案権を侵害するものであることを知り、又は過失により知らないでイ号製品の製造販売をなしている。したがつて被告会社及び被告篠邊は不真正連帯の関係で原告に与えた後記実施料相当の損害を賠償すべき義務がある。
(二) 被告会社は昭和五七年一月から同五八年一〇月末日までの間イ号製品を合計三億三〇〇〇万円分製造し販売した。本件考案の実施料率は販売価格の五パーセントが相当であり、実施料合計額は一六五〇万円となる。
よつて、原告は被告会社に対しイ号製品の製造、譲渡、貸渡の差止及びイ号製品の廃棄を、被告らに対し各自一六五〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一一月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
「(乙事件)
一 請求原因
1 原告株式会社シノベ製作所(甲事件被告会社に同じ、以下「被告会社」という)は、袋物ハンガー等の製造販売を主たる業とする会社であり、被告河本勉(甲事件原告に同じ、以下「原告」という)も同様の手提袋の提手の製造販売を行つており、両者は競争関係にある。
2 原告は実用新案登録第一二三六九八〇号実用新案権(本件実用新案権)を所有し、一方訴外デッカー企業株式会社(以下「デッカー企業」という)は本件実用新案権の通常実施権を有すると称している。
3 原告はデッカー企業と相通じ、昭和五七年六月二日から被告会社の得意先のユーザー(原告はマルヨシ物産株式会社及び日通商事株式会社東京支店、デッカー企業は株式会社イシダ外一〇社)に対し、被告会社が製造販売する商品名「デラックスハッピー」の別紙目録記載の手提袋の提手(イ号製品)が本件実用新案権を侵害するものであり、使用すると損害を蒙る旨の通告を行つた。
4 しかるに、前述のとおり(甲事件被告らの主張参照)イ号製品は本件考案の技術的範囲に属しないから、前記通告の、イ号製品を技術的範囲に属するとした部分は虚偽である。
5 被告会社は原告らの右行為により営業上の信用が害され、更に原告は将来に向つて右不正競争行為を行う可能性があるから、被告会社は営業上の利益を害されるおそれがある。
よつて、被告会社は、原告に対し、不正競争防止法一条一項六号に基づき乙事件請求の趣旨1項記載のとおり原告の前記不正競争行為の差止を求める。
6 原告及びデッカー企業は意思相通じて前記不正競争行為をなしたため被告会社は次のような損害を蒙つた。
被告会社は、昭和五六年一〇月ころからイ号製品を量産する設備づくりに着手し、設備が整つた昭和五七年二月ころから出荷を開始し、本件不正競争行為がなされた同年六月ころには、三〇社以上の取引先から月産四〇〇万本の発注を受けていた。したがつて、原告の不正競争行為がなければ同年六月遅くとも七月には月産四〇〇万本の出荷をすることが確実であつた。
しかしながら、原告の不正競争行為により被告会社の発注量は激減し、昭和五七年八月以降も、月産一〇〇万本を越えることがなかつた。
イ号製品一本につき被告会社が取得する利益は、一円五二銭であるから、被告会社は、遅くとも昭和五七年八月から、少なくとも毎月三〇〇万本相当の出荷量に相当する得べかりし利益四五六万円を喪失した。
右損害は昭和五七年八月から同五八年一一月までの間で、合計七二九六万円に及ぶ。右損害を、乙第一〇号証記載の取引先一一社(デッカー企業が通告した分)に限定して算出したとしても、被告会社は、原告らの不正競争行為により月間約一三五万本の損害を蒙つているのであるから、昭和五七年六月から同五八年一一月までの間に、優に八二〇万二〇〇〇円の損害を蒙つていることが明らかである。
よつて、被告会社は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、損害金八二〇万二〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後で乙事件訴状送達の日の翌日である昭和五七年一〇月二六日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
【理由】
(甲事件)
一請求原因1の事実(原告が本件実用新案権を有すること)は当事者間に争いがなく、右争いのない本件考案の「実用新案登録請求の範囲」及び本件実用新案公報(以下「本件公報」という)によれば、本件考案の構成要件は請求原因2(一)記載のとおり分説されうるものであること及び本件考案が同2(二)記載の作用効果を奏するものであることが肯認できる(構成要件分説の点は被告らの認めるところである)。
二被告会社がイ号製品を業として製造販売していることは当事者間に争いがなく、イ号製品を説明したものであることにつき当事者間に争いのない別紙の二イ号図面の詳細な説明の記載によれば、イ号製品の構成は請求原因4(一)記載のとおり分説するのが相当である(この点は被告らの認めるところである)。
三そこでイ号製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
1 <証拠>によれば、本件実用新案出願前次の技術が公知であつたことが認められる。
(一) 把手部とその両端に設けた嵌合装置とからなり、把手部両端に二股状に分岐した嵌合片を設け、一方の嵌合片に複数の突起部を設けると共に他方の嵌合片に複数の嵌合孔を穿設し、これらを合成樹脂で一体的に構成することを特徴とする袋物用提手。
(二) 両端に裏面が大径となつている複数個のテーパー孔を間隙をおいて穿設し、該テーパー孔の表面の周囲には円環状膨出部をそれぞれ構成した柔軟性プラスチックによつて構成した長尺の本件と、一個の基板上にテーパー孔の間隙と一致させて複数個の突起を突設し、該突起はその直径がテーパー孔の最小直径と一致させ、長さはテーパー孔の深さと袋の取付部分の厚さの合計したものとし、上記突起の上には先端が尖鋭で周囲の外径が突起より大きな錐体を硬質プラスチックによつて一体に形成した係止体とよりなることを特徴とする袋の提手。
(三) 透孔を設けるとともに片面には端部に小鍔部をもつ短筒部を設けた弾性プラスチェクス材よりなる雌体に同材よりなる環状の座板を該小鍔部を越えて短筒部に強制嵌合させ、他方前記透孔の径より若干大とした突子を片面に設けるとともに他面には端部に小鍔部をもつ短柱部を設けてなる雄体には弾性プラスチックス材より環状の座板を該小鍔部を越えて短柱部に強制嵌合させ、雌体の透孔に雄体の突子を強制嵌合させてなる袋口の合せ留具。
(四) 可撓性を有する合成樹脂材料をもつて鋲状体を構成すると共に各鋲状体の内側にそれぞれ内方に向つてフランジを有する膨出部を突出せしめ同部頂面に内奥を径大とせる凹陥孔を設け、またこれとは別個に連結ピンを構成しその両端に突設せる係合突起を上記凹陥孔に係合自在ならしめて成る袋物における提手紐係止具。
ところで、被告らは、本件考案は、右各公知技術を勘案すれば、極めて容易に推考できたものであり、実用新案法三条二項に違反しており、その権利範囲を登録請求の範囲及び明細書掲記の実施例の示す構造に限定解釈すべきであると主張する。
しかし、前記各公知技術は本件考案とはいずれも相違しており、かつ本件考案は提手を袋物に挟着する手段と袋物体開口部の閉鎖方法とを同時に解決した考案と認められるが、前記公知技術を取捨選択して本件考案に想到することが極めて容易に推考でき得るものとの速断は許されないし、更に右推考容易であると判断して登録実用新案を無効とすることは特許庁の専権に属するところ、侵害訴訟裁判所が特許無効を前提として限定解釈を行い原告の請求を棄却し、その判決が確定した後特許庁の審判(及びそれに続く審決取済訴訟)において特許有効が確定したのきには原告にとつて十分な救済手段のないことを考慮すると、侵害訴訟裁判所が本件考案が出願前の個々の公知技術から極めて容易に推考できたものとして、主張されるような限定解釈を行うことは許されないと解するのが相当であり、被告らの前記主張は採用できない(なお、<証拠>によれば、被告会社は本件実用新案権につき特許庁に対し無効審判請求をしたものの、特許庁は昭和五九年一月六日付で右審判請求は成り立たないとの審決をなし、その理由中で被告会社の、本件実用新案権は実用新案法三条二項に違反するとの主張を排斥していることが認められる。)。
2 そこで、イ号製品の構成と本件考案の構成要件を対比すると、構成(ハ)'、(ニ)'、(ホ)'がそれぞれ構成要件(ハ)前段、(ロ)並びに(ハ)後段及び(ニ)、(ホ)を充足していることは明らかである。
3 更に構成(イ)'(ロ)'が本件考案の構成要件を充足するか否かについて検討する。
構成(イ)'は「紐条帯からなる二個一組の提手本件1の両端部に夫々二片の耳部2、2'を対称的にかつ一体的に設明」、構成(ロ)'「一方の耳部2に二つの挟持突子a、aを直角方向に突設し」であるのに対し、構成要件(イ)は「紐条帯からなる二個一組の提手主体1、1の両端部2、2の側面に直角方向の挟持突子a、aを突設し」であり、構成要件(ハ)の中に「挟着板3、3」がある。
そして本件考案は挟着板が提手主体となつたものも含むのか、挟着板が提手主体とは別個独立したもののみを対象としているのかが争点となつているので、以下検討する。
本件公報中の挟着板と提手主体の関係についての記載をみてみると、実用新案登録請求の範囲では「前後一対の挟着板3、3を内側から添わせて」とのみ記載されており、考案の詳細な説明の中では、「図面につき説明すれば」と前置し、「前後一対の挟着板3、3を各々内側から添わせて前記の挟持突子a、aの先端を受孔b、bに着脱自在に強嵌して成る手提袋の提手に係り、提手主体1および挟着板3は主としてポリエチレン等の合成樹脂資料から成り、挟持突子aの数は任意とし、挟着板30受孔bに強嵌し挟着するだけで容易にガタ付いたり離脱したりしない強力な挟持力を有するものであるが、」と記載し、更に「本案は上記の如く挟持突子a、aを突設した提手主体1の両端部2、2の受孔b、bを穿設した挟着板3とで袋体6の上口側辺eまたはe'を内外横通状に強嵌挟持して、袋体6えの提手主体1の装着を簡易にし且つ荷重に対する丈夫さを図つたものであるが、」と記載されている。また、図面の簡単な説明では「第6図は提手主体と雌型結合子を設けた挟着板のみを分離して示した斜視図、第7図は提手主体と雌型結合子を設けた挟着板のみを分離して示した挟着要部の拡大側面図」と記載され、図面はいずれも挟着板が提手主体とは別個独立した図が記載されている。
そこで本件考案における挟着板と提手主体との関係について検討するに、(一)実用新案登録請求の範囲は、挟着板が提手主体と一体であるとは明記されていないが、他方、挟着板が提手主体とは別個独立であるとする限定はみられないこと、(二)詳細な説明中の「本案は」以下の文章は挟着板が提手主体と別個独立であつても一体であつても矛盾なく読むことができるばかりではなく、前記特開昭四七―三一七七四号公報、特開昭四七―八五一〇号公報及び昭和四二年三月二九日出願にかかる特公昭四八―一六七五五号公報右公報には「把手部と嵌合装置とからなり、前記嵌合装置は把手部両端において二股状に分岐した支持端子の先端に一組の凸状嵌合部と凹状嵌合部とを設け、これらを合成樹脂で一体的に形成することを特徴とする袋物用提手」の技術が開示されている。)の各技術は本件実用新案出願前既に公知であり、挟着板を提手主体と一体とする技術も別個独立した技術も公知であつたのであり、通常の知識を有する者であれば前記認定の詳細な説明中の記載から挟着板を提手主体と一体とする提手も別個独立とした提手も容易に実施できるものと認められること(実用新案法五条三項参照)、(三)更に図面には挟着板を提手主体と別個独立したもののみの記載があるが、図面は実施例にすぎず、このことから本件考案は挟着板が提手主体とは別個独立のものであるとすることはできないこと、以上を総合すると、本件考案は挟着板が提手主体とは別個独立のものはもちろん一体となつたものも含まれると解するのが相当である。
そうすると、構成(イ)'(ロ)'は構成要件(イ)(ハ)(挟着板)を充足するということができる。
(仮に本件考案は挟着板が提手主体とは別個独立のものを対象としているとしても、イ号製品は提手主体と挟着板を統合したものにすぎず、本件考案と同一の作用効果を有し、挟着板と提手主体とを統合して一体となすことは従来の技術から容易に置換できたものであるから均等であると認めうる余地がある)。
4 なお、被告らは本件考案は従来の公知技術の中から原告が扶着板が提手主体とは別個独立したものを選択したものであると主張しているが、前記のとおり登録請求の範囲の文言中に本件考案は挟着板が提手主体と別個独立していると限定した記載はみあたらず、したがつて前記主張は採用できない。
また、被告らは訴外松城紙袋工業株式会社が原告とは無関係に意匠登録第五六七八一六号の意匠を実施していると主張し、<証拠>によれば、右訴外会社が右意匠権(右意匠の構成はイ号製品と同じ構成である)を有していることが認められるが、同書証によれば、右意匠権の出願は昭和五一年一一月一〇日であり、本件考案の方が先願であり、抵触する場合には本件実用新案権の方が優先するのであり(意匠法二六条参照)、訴外会社が右意匠権を有し実施することは、何らイ号製品が本件考案の技術的範囲に属するとの結論を左右するものではない。
更に、被告らは技術的範囲は実施例に限定され、これを拡張するのは禁反言違反であると主張するが、実施例は技術的範囲の一例にすぎず、特段の事情のない限り技術的範囲が実施例に限定されることはないのであり、本件考案が挟着板を別個独立したものも一体としたものも双方含むことは前述のとおりであり、原告の主張をもつて禁反言違反と目することはできない。
5 そしてイ号製品は各構成を有することによつて本件考案と同一の作用効果を有するものであるから、その技術的範囲に属するというべきである。
被告らはイ号製品につき本件考案との作用効果の相違を主張しているが、イ号製品は本件考案と同一の作用効果を有しており、本件考案の作用効果の外に他の作用効果を有するとしても、かかる事情はイ号製品が本件考案の技術的範囲に属するとの前記結論を何ら左右するものではない。
四 したがつて、被告会社がイ号製品を業として製造販売することは本件実用新案権の侵害となる。
そして、被告会社がイ号製品を業として製造販売していることは前記のとおりであり、右のことから被告会社はイ号製品を貸し渡すおそれがあるということができる。
五<証拠>によれば、被告会社はイ号製品を昭和五七年二月から同五八年一〇月までの間製造販売したが、被告篠邊はその間被告会社の代表取締役であつたこと、被告篠邊は本件実用新案権の存在を知つていたことの各事実が認められ、右事実にイ号製品は前記のとおり本件実用新案権を侵害するものであることを考え合わせると、被告篠邊はイ号製品を製造販売することが本件実用新案権を侵害することを過失により知らなかつたことが推認され、被告会社代表者兼被告篠邊本人尋問の結果によれば、被告会社は弁理士からイ号製品は本件実用新案権に抵触しないとの鑑定を受けていたことが認められるが、前記のとおりイ号製品が本件実用新案権を侵害する以上右事実も前記認定を左右するものではなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
よつて、被告会社及び被告篠邊は不真正連帯の関係で原告の蒙つた後記損害額を賠償する義務がある。
六 そこで損害額につき検討するに、原告は、被告会社は昭和五七年一月から同五八年一〇月までの間イ号製品を三億三〇〇〇万円分製造販売していると主張するが、<証拠>によれば、被告会社は昭和五七年二月から同五八年一〇月までイ号製品を一九一九万五〇〇〇本製造し一本約三円八〇銭で販売していることが認められるものの、右数値を超える部分についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
そして本件実用新案権の実施料率については、<証拠>によれば、原告はデッカー企業に対し、本件実用新案権につき出荷価格の五パーセントを実施料として実施許諾していることが認められ、右事実及び弁論の全趣旨によれば、本件実用新案権の実施料率は販売価格の五パーセントをもつて相当と認める。
そうすると、本件において実施料合計額は3円80銭×1919万5000本×0.05の計算上により364万7050円となり、右金額が原告の損害額となる。
(乙事件)
七原告が本件実用新案権を所有し、デッカー企業が本件実用新案権の通常実施権を有すると称していること、原告がマルヨシ物産株式会社及び日通商事株式会社東京支店に被告会社主張の内容の通告をなしたことは当事者間に争いがない。
<証拠>を総合すると、原告がマルヨシ物産株式会社及び日通商事株式会社東京支店に、デッカー企業が株式会社イシダ外一〇社に対し、イ号製品が本件実用新案権を侵害するものであると通告したことが認められる。
しかしながらイ号製品が本件実用新案権を侵害することは前記のとおりであり、右通告の内容が虚偽の事実であると認めることはできず、被告会社の乙事件請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
(結論)
八よつて、原告の甲事件請求のうち、被告会社に対し、イ号製品の製造譲渡等の差止、イ号製品の廃棄、被告らに対し、各自損害金三六四万七〇五〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、また被告会社の乙事件請求は理由がないから棄却す<る。>
(潮久郎 紙浦健二 徳永幸藏)
別紙
手提袋の提手(イ号製品)一、イ号図面は、イ号製品の斜視図である。
二、イ号図面の詳細な説明
紐条帯からなる二個一組の提手本件1の両端部に夫々二片の耳部2、2'を対称的かつ一体的に設け、一方の耳部2に二つの挟持突子a、aを直角方向に突設し、他方の耳部2'に雄型又は雌型の結合子4、5を設けると共にこの雄型又は雌型の結合子4、5を挟んで前記挟持突子a、aのための受孔b、bを穿設し、前記挟突子a、aを袋体の開口部側緑の外側から挿通すると共に対向して設けられている別の耳部2'に穿設された受孔b、bに挿通して着脱自在に固定する。